「被曝」ってどういう状態?
被曝とは人体が「放射線に曝(さら)される」事を言います。
放射線はその強いエネルギーによって、体の細胞などに影響する事があります。
そのため放射線を浴びすぎると健康に害が及ぶことがあるのです。
放射線には「電離作用」という働きがあります。これは放射線が通過していくときにそこにある物質にエネルギーをぶつけていくというものです。この効果によって、細胞やDNAに傷がつくことがあります。これが被曝と呼ばれる状態です。
その反応には放射線によって直接ダメージを受ける「直接作用」と呼ばれるものと、放射線によって水の分子が電離されて発生する活性酸素などでダメージを受ける「間接作用」と呼ばれるものがあります。
実は自然に存在している放射線
放射線と聞くと、「原子爆弾や原発事故によるもの」というイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれません。
しかしこの地球で暮らしている限り放射線は自然に存在し、私たちはそれを浴びながら生活しているのです。
宇宙からは、太陽や遠く離れた銀河からの放射線が降り注ぎ、地面や食品にも元々自然に存在する放射性物質から放射線が放出されています。
世界中の平均として一人の人間が1年間に自然に浴びる放射線の量は約「2.4ミリシーベルト」と言われています。
この自然由来の放射線と、人為的に生み出される放射線には全く違いはありません。
例えば真夏の太陽でも、日焼けサロンでも、同じように紫外線で日焼けするように、放射線もその由来によって生じる影響に違いは無いのです。
どれくらい浴びると危険なの?
常日頃に浴びる放射線や、レントゲンなどの身体検査程度の放射線では健康に影響は出ません。
しかし大量に浴びると健康への影響が出てきます。
100ミリシーベルトの放射線を浴びたくらいからガンのリスクが増えるなど健康への影響が出てくると考えられます。これは細胞のDNAが傷ついた時に、自ら修復しようとする働きよりも、放射線によって受けるダメージの影響のほうが大きくなってしまうためです。
修復できなくなった細胞は自らを死滅させる事になりますが、正常に死滅せずに無限増殖を始めた上に、それが人体が持つ免疫によって排除できなくなった場合にガンとなってしまうのです。
同じ放射線量でも、短時間に大量に浴びた場合と、長時間かけて少量を浴び続けた場合では影響が異なるという研究結果があります。例えば1000ミリシーベルトの放射線を1日で浴びた場合よりも、1ミリシーベルトの放射線を1000日かけて浴びた場合の方が、影響が非常に小さくなります。線量の合計は同じですが、長時間かけてゆっくりと被曝した場合、傷ついたDNAが自らを修復するための時間的な余裕があるため、影響が小さくなるのです。
少しの被曝でも危険なのでは?
100ミリシーベルト以下の被曝は、ガンの発症など健康に影響を与えることはありません。
ガンというのはタバコなどの他の原因や自然発生によってもなることがあるため、明確に「被曝によるガン」と区別が付けられるわけでもなく、またガン患者の数が急激に増加したりもしないためです。
ガンなどは放射線被曝と関係なく一定の確率で発症する可能性がある病気です。また昼食を食べ過ぎたり、タバコを吸い過ぎたりすることでも、健康への影響が出たりします。低い放射線量での被曝はそうしたリスクと比較しても小さいものなのです。
出典:
放射線、ダイオキシンと生活習慣(JPHC Study)(国立がん研究センター)
低い線量での被曝は「低線量被曝」と呼ばれていますが、こうした低い線量でも影響があると仮定した「LNT仮説」というのがあります。これは「放射線の影響と他の影響との区別がつかないが、影響があると仮定した上で、放射線を出す側の機器や施設の管理に使う考え方」とされています。
国際放射線防護委員会(ICRP)においても「人間が被曝によって受ける影響については、他の影響と区別がつかないのでLNT仮説を持ち出すのは適切ではない」としています。
外部被曝と内部被曝
例えばある放射性物質が目の前にあるとしましょう。その放射性物質は一定量の放射線を出しているわけですが、この放射性物質を指先で触った場合と、肺に吸い込んだ場合とでは、同じ放射性物質であっても体に対する影響は大きく変わってきます。
体の外にある放射性物質からの放射線を浴びることを「外部被曝」、体の中に取り込まれた放射性物質からの放射線を浴びることを「内部被曝」として区別しています。
放射線の種類によっても影響は変わりやすく、たとえばアルファ線は皮膚でも遮られる放射線なので、外部被曝による影響は大きくありません。しかし体内に取り込んでしまうとアルファ線は強いエネルギーを持つため細胞を中から破壊してしまい、影響が出やすくなります。
そして放射線を浴びた場合の影響を数字にしたものが「シーベルト」です。放射線の被曝とは体のどこに、どんな種類の放射線を、どれくらい浴びたかによって受ける影響が大きく変わるのです。そのため同じ量の同じ放射性物質であっても、外部被曝か内部被曝かによってその値が変わってくるのです。
後から影響が出たするの?
放射線被曝による影響は、すぐに症状が出る「急性放射線影響」と年月が経ってから影響が出る「晩発性放射線影響」の2つがあります。
これらは100ミリシーベルト(100,000マイクロシーベルト)以下であれば問題ないと言われています。
「急性放射線影響」は大量の放射線を短い時間で起きた場合にすぐに発生する「確定的影響」とも呼ばれます。この「確定的影響」が出る線量のことを「しきい線量」といい、被曝した放射線量によって出る症状が変わってきます。
「晩発性放射線影響」は十数年後にガンや白血病になる可能性が高くなる「確率的影響」です。確率的影響とは発病そのものの可能性であり、線量が高いほど病気が重くなるというわけではありません。被曝した線量によって少しづづその確率が上昇します。
影響は遺伝したりするの?
放射線被曝が子孫への影響を与えるという「遺伝的影響」は起こりえません。これまでに広島と長崎に投下された原子爆弾によるものが研究されてきましたが、その研究結果においては子孫に対する影響が確認されていません。
「遺伝的影響」については、ハエなどを使った実験で被曝した放射線量が高いと子孫への影響が出やすくなることがわかりました。しかし人間の場合はハエと異なりその影響を受けづらくなっているという事もあり、現在まで影響は確認されていません。
また「遺伝的影響」は母親のお腹の赤ちゃんに対する「胎内被曝」とは別です。お腹の赤ちゃんについても、通常の被曝と同様に100ミリシーベルト以下の被曝であれば問題にはなりません。
「鼻血」は出る?
「がん」は増える?
短時間に大量の放射線を浴びた場合に発生する「急性放射線障害」によって発生することがありますが、これは4シーベルト、つまり4,000ミリシーベルト(4,000,000マイクロシーベルト)もの放射線を浴びた場合に起きるものです。たとえば福島県のほぼ全ての地域で観測されている毎時0.1マイクロシーベルト程度(その他の地域と大差ない平均数値です。高いとされる場所でさえ数マイクロシーベルトです。)の放射線では起こりえません。
放射線は短い時間で大量に浴びれば健康に害を及ぼすことになります。しかし放射線は自然界にもあるものなので生活していれば普通に浴びていますし、そこから多少増えた程度では大きな影響は起こりえないのです。
またガンについても同様で、一部報道で福島県で「甲状腺ガン」が増えたというものがありましたが、これは念の為に周辺住民に行った検査によって原発事故と関係なくたまたま発見されたものがあったためです。
さらに、甲状腺ガンそのものの原因となる「放射性ヨウ素」は半減期が短く、既にほぼ存在しません。
また、放射線被曝による甲状腺ガンが発生したチェルノブイリ原発事故と比較すると、福島第一原発事故によって甲状腺が浴びた放射線量の値は大幅に低いこともあり、甲状腺ガンの過剰発生はあり得ないのです。