福島第一原発事故と、「今」

2011年3月11日に発生した東日本大震災により、事故を起こした福島第一原子力発電所。
そこで起きたことと、現在の状態を見てみましょう。

冷やせなくなった原子炉

地震が起きた直後、大きな揺れが観測されると同時に原子炉は自動的に停止しました。

核分裂の連鎖反応を止めるための制御棒が一気に原子炉に入れられ、1秒程度で原子炉は停止しました。

しかしその後の津波で電源が破壊され、原子炉に残る「崩壊熱」と呼ばれる余熱を除去することができなくなってしまいました。

原子炉は停止したが、崩壊熱という余熱を除去できなくなった

発電所は電気を作る所なので、「電力が必要」というのは意外かもしれません。しかし発電所の設備を動かすためには外部からの電力も必要なのです。

福島第一原子力発電所では外部からの送電線、非常用の発電機やバッテリーなどが全て津波によって破壊され、原子炉を適切に冷やすための電力が供給できなくなってしまったのです。

炉心損傷(メルトダウン)

発熱する核燃料を冷やすための水が原子炉に供給されない状態が続くと、中の水はどんどん熱で蒸発して失われてしまいます。

そうすると普段は水の中に浸かっているべき核燃料が、水の外に露出してしまいます。そして核燃料が過熱し、高温になると燃料が溶け始めてしまう「炉心損傷」が起きてしまいます。

冷却水が失われると原子炉は空焚きになって燃料が溶ける

原子炉を冷やすためのものが無くなってしまうこうした事故は「冷却材喪失事故(LOCA)」と呼ばれています。炉心損傷が起きてしまうと最終的に原子炉そのものが壊れ、放射性物質を安全に中に閉じ込める機能が失われてしまいかねないのです。

核爆発ではない「水素爆発」

福島第一原子力発電所で炉心損傷が起きてしばらくしてから、原子炉建屋が相次いで爆発を起こしました。しかしこれは原子爆弾にあるような「核爆発」ではありません。

原子炉の炉心において核燃料を覆う「ジルカロイ」と呼ばれる金属が、高温の影響で化学反応によって水を水素と酸素に分解してしまったため、大量に発生した水素に何らかの理由で引火してしまったのです。

内部で発生した水素ガスに引火して発生した爆発

まず核爆発というのは核分裂の連鎖反応が爆発的に進行させることで引き起こされます。そのため、核分裂をゆっくり起こす事を目的に設計された原子力発電所ではそのような核爆発に至る程の核分裂反応を一気に引き起こすことはできないのです。

さらに原子炉における核分裂反応は、核燃料の間隔など絶妙なバランスを必要とするため、炉心損傷した状態では核分裂反応を上手く維持できなくなります。そのため事故が起きて以降、核分裂の連鎖反応が再び起きるという「再臨界」は原子炉の構造上、非常に発生しにくいのです。

放射性物質の放出

放射性物質を閉じ込める能力を失い、壊れた原子炉からは放射性物質が外部へと放出されました。

これ程の事故は、原子力施設での事故の深刻さを表す国際原子力事象評価尺度(INES)において、旧ソ連のチェルノブイリ原子力発電所事故に匹敵する「レベル7」の事故であると定義されています。

ちなみにチェルノブイリでは「RIA(反応度事故)」と呼ばれる、核分裂の連鎖反応の進み具合(反応度)が暴走した状態になり原子炉が爆発して大火災となりました。そのため同じレベル7であっても、放射性物質の放出量は福島第一原子力発電所よりも非常に多くなってしまっています。

放射性物質が放出されたレベル7の事故

「チェルノブイリと同じ」と言われる事もありますが、「LOCA(冷却材喪失事故)」によって核燃料が溶け落ちた福島第一と、「RIA(反応度事故)」によって核分裂が暴走したチェルノブイリでは事故の起こり方からして全く異なります。

そのため結果的に外部に放出された放射性物質の量も大きく異なるのです。福島第一の場合はほぼ全ての核燃料が原子炉もしくは原子炉の下に残った状態なのです。また、チェルノブイリで事故を起こしたタイプの原子炉も改良を加えられ、こうした事故が起きないようにされています。

福島の放射線量は?

事故直後は周辺の放射線量が上昇し、ニュース等でも騒ぎとなりました。

しかし元々の放出量がある程度は抑えられた事や、現在は放射性物質の自然な減少のほか、除染が進んだりすることで人間が浴びる放射線量は小さく、全国平均や世界平均と比較しても大差がない値になってきたことが確認されています。

現在の福島県の線量はこちら

出典:
http://www.jhps.or.jp/pdf/introduction-1.pdf(日本保健物理学会)

除染も進み、自然な減少もあって大差ない放射線量

福島第一原発事故は「レベル7」に分類される大きな事故でしたが、現在は事故直後と比べても放射線量も大幅に低下しています。また人間が浴びる放射線量も短時間に数百ミリシーベルト(数十万マイクロシーベルト)を超えなければ影響は出ないということも踏まえると十分に安全な状態であると考えられます。

今後こうした事故が起きないように対策をする事は重要ですが、原子力を利用する上では、こうした事故が起きた場合の対応や、地域レベルで発生する様々な問題についても十分に考えられなければなりません。

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