未来の原子力

安定したエネルギー供給を実現できる原子力。
未来にわたって利用するために必要なのはまず「高い安全性」と「高い性能」です。

「第四世代原子炉」

現在の原子力発電に代わる、次世代の原子力エネルギーとして考えられているのが「第四世代原子炉」と呼ばれる新しいタイプの技術を利用した新しい原子力発電です。

これは今利用されている原子炉よりも、高性能かつ高い安全性を実現できる原子炉として各国で研究開発がすすめられています。

次世代の原子炉は安全で高い効率を実現する

これまでの「軽水炉」を含む「熱中性子炉」というタイプの原子炉では、核燃料の再利用などにも限界があります。そのため「高速中性子炉」と呼ばれるタイプの原子炉を利用することで、核燃料の有効活用、放射性廃棄物の低減、そして高い安全性を実現しようとしています。

また熱中性子炉の中でも、高い安全性と性能を実現できる「高温ガス炉」という新しいタイプの原子炉の研究も進められています。これは原子炉を冷却するための冷却材にヘリウムガスを使う、高い温度での運転ができる原子炉です。核燃料が極めて破損しづらく、また高温を利用した水素製造なども可能です。

「高速中性子炉」のメリット

従来の多くの原子炉が、核分裂の連鎖反応を引き起こしやすくするために中性子のスピードを落とす「減速」を行っていたのに対して、高速中性子炉では核分裂で生じたスピードの早い中性子をそのまま利用して核分裂の連鎖反応を維持しています。

高速中性子炉では、核燃料を使った以上に増やすことのできる「増殖」や、高レベル放射性廃棄物の一部を「核変換」によって半減期の短い別の物質に変換できるなどのメリットがあります。

高速中性子炉は燃料を増やしたり、放射性廃棄物を減らすこともできる

「増殖」は、核燃料に含まれる「核分裂しにくいウラン238」が「核分裂しやすいプルトニウム239」へと原子炉で変換されることで実現されます。この変換は従来の原子炉でも一部起きているのですが、高速中性子を利用することでこの変換の割合を大きくできます。そのため核燃料が消費されるよりも1.2倍程多く核燃料を作り出すことができるのです。

「核変換」では、放射性廃棄物とされる、「マイナーアクチノイド(MA)」や「長寿命核分裂生成物(LLFP)」と呼ばれるタイプの放射性物質に高速中性子を当てることで、より半減期の短い物質に変えてゆきます。従来の原子炉で用いられるスピードの遅い熱中性子ではこれらの処理に向かないため、高速中性子炉ならではの能力です。

真の核燃料サイクル

次世代原子炉、特に高速中性子炉を利用した核燃料サイクル技術が進めば核燃料を有効活用しつつ、その過程で出た放射性廃棄物の低減すらも可能になります。

また核燃料は再使用する度に、核分裂しにくいプルトニウムが増えてしまうため、その回数に限界があります。しかし高速中性子炉であればそれらの核分裂しにくいプルトニウムも核燃料として利用できるため、再利用できる回数も増えるのです。

放射性廃棄物を減らしつつ、プルトニウムを効率的に燃料として利用できる

高速中性子炉は、「高速増殖炉」として核燃料となるプルトニウムを生産することができますが、逆にプルトニウムを消費するのにも適した原子炉なのです。これは高速増殖炉でプルトニウムを生み出している「ブランケット部」を取り外せばただプルトニウムを消費するだけの原子炉になります。つまりプルトニウムを増やしたり減らしたりと比較的に柔軟に対応できるのが高速中性子炉を利用した核燃料サイクルのメリットなのです。

近年はウラン採掘技術の進歩や海中からのウラン回収の検討がなされているほか、解体された核兵器からのウランやプルトニウムなども存在するなど、高速増殖炉でわざわざプルトニウムを作らなくても良いのではないか、と言われています。そのため、現在では核燃料を増やすよりも、高レベル放射性廃棄物の低減などを主に視野にいれた研究も積極的に行われています。

高い安全性の実現

高速中性子炉は、従来の原子炉と比較してその発熱量が大きくなる傾向にあります。また、核分裂の連鎖反応を引き起こすための中性子を減速させないという特性上、中性子の速度を落としやすい水を冷却に使うことができません。

そのため、高速中性子炉では主に金属ナトリウムや鉛などを高温で液化させた液体金属を原子炉の冷却に使うことが有望視されています。液体金属は熱を輸送する能力に優れ、沸騰する温度も非常に高いことが特徴です。

万が一、原子炉の冷却装置のポンプ等が故障しても、冷却能力の高い液体金属が自然に循環することで原子炉の炉心を冷却し、炉心損傷などの大きな事故を防ぐことができる「受動安全性」を持ちます。

事故を起こしにくい非常に高い安全性を持つ原子炉

軽水炉で使われている軽水というのは、要するに普通の水なので1気圧では100℃で沸騰してしまいます。原子力発電所では発生した熱に対する発電の効率を高めるために、原子炉をできるだけ高い温度で運転できるよう、原子炉自体を数十~百数十気圧まで加圧しています。これだけ高圧の環境にすることで、水が沸騰する温度を300℃程度に上げています。

しかし液体金属は1気圧でも、沸騰するのが数百度以上の非常に高い温度であるため、原子炉を加圧する必要がありません。そのため原子炉を高圧に耐える設計にする必要が無いのです。加圧する必要が無いため、何かの理由で原子炉が急減圧したとしても、冷却材が沸騰して失われて冷却が不可能になるという事態が起こりにくくなるのです。

ナトリウムは軽く、自然にも多く存在しているので利用しやすいというメリットがありますが、水と化学反応を起こして発火する性質があるため、この対策が必要になります。鉛は水と触れても発火したりはせず、沸点も高いので冷却能力は高いのですが、融点が高く、また腐食性もある上、重いために地震対策が大変になります。

こうして次世代の原子炉を設計する際には、様々な材料のメリットやデメリットが考慮されることになります。

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