原子力と、リスク

メリットの大きな原子力エネルギー。
しかし原子力を利用するにあたって考慮しなければならない「リスク」とは
具体的にどういうものなのでしょうか。

原子力の安全性とは

原子力発電において必要な安全性とは、万が一の際に「原子炉を止める」、「原子炉を冷やす」、「放射性物質を外部に出さない(閉じ込める)」ということです。

原子力発電に伴って排出される放射性廃棄物についても、これらを環境や健康に対して悪影響とならないよう、しっかりと「閉じ込めておく」ことが重要です。

そして、原子力の平和利用のため、ウランやプルトニウムといった核分裂性物質を厳重に管理し、核兵器開発が世界に拡散しないよう努める事も重要です。

放射性物質を放出させないための原則

異常時に原子炉を緊急停止させる事は重要です。通常の原子力発電所では非常停止の操作を行った場合、原子炉は1秒から2秒程度で核分裂の連鎖反応を即座に停止させることができます。核分裂反応を抑えるための「制御棒」が一気に挿入されるためです。

しかし、核分裂によって生み出された不安定な放射性物質は、放射線と同時に「崩壊熱」と呼ばれる熱も放出するため、原子炉は止めた直後でもこの余熱とも言えるものによって高温な状態がしばらく続きます。そのためこの熱を適切に冷やし続ける事が重要なのです。

原子炉を冷やせるか

核分裂はすぐ停止できても発生し続ける熱を冷やさなければなりません。そのため冷却水を送り込むポンプの電源や水源を複数用意しておくことが重要になります。また、何もしなくても勝手に原子炉が冷えるような設計も可能であれば安全性は大きく向上することになります。

原子炉が冷却する設備を複数準備する必要がある

地震や津波に対して原子力発電所はどれだけ無事でいられるか、というのも「原子炉を安全に停止させ、冷却し、放射性物質を放出させない」という原則を維持するための要素であるというわけです。

原子炉が大きく損傷し、放射性物質が大量に環境中に放出されることになれば、環境や健康に対して悪影響を及ぼす場合もあります。そうした事態を防ぐために、技術的な面で何重にも安全対策を行っています。

国内の原子力発電所では、大規模な防波壁の建設や、複数の電源や水源の確保、ガスタービン発電機や非常用復水器を搭載した車両の配備など、様々な安全設備の増強が行われています。

放射性物質を閉じ込める

放射性物質を外部に大量に放出させないのは重要なことです。原子力発電所で利用される核燃料や原子炉容器はその役目を担っているのです。

核燃料そのものはセラミック状に焼き固められ、さらにそれが被覆管と呼ばれる管に収められています。核分裂によって発生した、放射能を持つ核分裂生成物はこの中に閉じ込められるのです。

また、原子炉容器やそこに直接繋がる配管などをまとめてバウンダリと呼び、この部分は放射性物質を外部に放出させないための重要な区画として厳重に管理されています。

放射性物質が出ていかないように、閉じ込めなければならない

停止された原子炉が適切に冷却できない状態が長期間続いた場合、複数の安全策を用意していたとしても、外部からの支援が一切無ければ電力や水源の枯渇などでいつかは限界が来ます。何重にもある安全対策というのは単純にそれが事故に対する防壁となるだけではなく、大事故に至るまでの時間的な余裕を確保して、外部からの支援を待てるという面もあります。そうした余裕があれば複数の手段を講じることができますし、それが多重防護の目的でもあるのです。

核兵器を拡散させない

原子力発電で利用されるウランやプルトニウムは、純度や組成の問題で核兵器に直接利用するのには適していません。しかしそれらの核物質が何らかの形で悪用されたりすることの無いよう、しっかりと管理する必要があります。

原子力発電所やその他核燃料を取り扱う施設では、ウランやプルトニウムが適切に在庫通り管理されているかを定期的に確認する国際原子力機関(IAEA)による「保障措置」が行われている他、テレビカメラを利用した監視も行って不審者の接近などを防ぐ「核セキュリティ」対策を行っています。

平和利用目的の原子力発電が核兵器に転用されないように対策しなければならない。

使用済み核燃料をリサイクルする核燃料サイクルの活用のほか、解体された核兵器から取り出されたウランやプルトニウムは原子力発電所用の燃料として加工することができます。

こうした核物質のエネルギー資源としての活用は、核物質の核兵器への転用を防ぐ手段にもなります。核物質を核燃料として原子力発電所や核燃料施設に閉じ込めておけるため、外部へと流出しづらくなるためです。問題はその中でこっそり核物質を持ち出したりされることのないよう、監視などを行う必要があるのです。

放射性廃棄物をどうするか

原子力エネルギーを利用する上で切り離せないリスクが「放射性廃棄物」です。これらを外部へと大量に放出させずにしっかりと「閉じ込め続けておく」必要があります。

放射性廃棄物はものによっては長期間保管する必要があり、これは再処理によって分別したり、「核変換」によって別の半減期の短い物質へと変えてしまうことで、その量を減らそうとしています。

それでも量はゼロとすることができないため、強い放射能を持つ「高レベル放射性廃棄物」が最後に残ることになります。これはガラスと混ぜて固めた「ガラス固化体」と呼ばれる安定した状態に加工します。そしてそれを複数の方法で護った後、地殻変動の少ない安定した地下深くへと埋める「地層処分」が検討されています。しかし具体的な場所はまだ決まっておらず、これを何処に処分するのか、選ばれた場所が本当に長期間安全であると確証できるか、といった点が問題となります。

放射性廃棄物は減らすことができても、最終的な処分場は考えなければならない

使用済み核燃料の、放射性物質が安全なレベルになるまで「10万年」と言われることがあります。しかしこれは10万年もの間ずっと最初の危険な状態が続くわけではありません。危険性は時間とともに低下していくのです。

ガラス固化体は最初の状態ですと近くに居るだけで、数十秒で人間が確実に死亡する程の放射能を持っていますが、50年後には約1/10、1000年後には約1/3000にまで弱まっていきます。それだけの長期間安定して保管できるように開発されたのがガラス固化体と、それを覆うための様々な技術なのです。

地球温暖化防止と
エネルギー安全保障

石油や天然ガスといった化石燃料はいつか尽きると言われています。またそれらを燃やす事で発生する二酸化炭素が地球温暖化の原因となり、気候変動を引き起こす可能性も指摘されています。環境の変動が起これば大きな災害や海面上昇による危険に曝される事にもなります。

しかし現代文明において電気エネルギーは欠かすことができません。安定して大きな出力を供給できる原子力は、将来的に安定したエネルギー源として有用と言われています。

地球温暖化問題にも対応しつつ、エネルギーを安定的に供給できる手段が必要

原子力発電を利用することによって発生するリスクと、将来的に安定したエネルギー供給ができなくなるというリスクを天秤にかけたとき、どちらがより重大な問題となり得るか?というのはよく議論の対象となります。

十分に活用できる代替エネルギーが存在するのか、また原子力発電を継続するにしてもどういった原子炉や核燃料サイクルを利用するのか、原子力施設で万が一の事故が起きた際の対策や対応は十分なのか、と様々な要素が絡んでいるため、原子力のエネルギー利用というのは正解を見つけるのが難しいものでもあります。

原子力が持つデメリット、リスクと向き合いつつ、そのメリットを最大限活かすことができるよう、数多くの方々の努力の下で原子力の利用が行われています。

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