多くの探査機が「行ったきり」であることに対して、「はやぶさ2」は初代「はやぶさ」と同様に地球へと帰還しなければなりません。そのためには小惑星へ行って帰ってくるための道筋である「軌道」を自由自在に制御する必要があります。「はやぶさ2」は太陽系を渡り歩く「宇宙船」としてそのミッション達成を目指すことになります。
前方上部から
- Xバンド低利得アンテナ
X-LGA - 太陽電池パドル
SAP - 分離カメラ
DCAM3 - スタートラッカー
STT - 近赤外分光計
NIRS3 - 地球帰還カプセル
CPSL - Xバンド高利得アンテナ
X-HGA - Kaバンド高利得アンテナ
Ka-HGA - Xバンド中利得アンテナ
X-MGA - DCAM3用アンテナ
DCAM3-ANT/ANT2 - 化学推進系
RCS - イオンエンジン直流電源
IPPU - 広角光学航法カメラ
ONC-W2 - レーザ高度計
LIDAR - サンプラホーン
SMP
後方下部から
- 多バンド分光カメラ
ONC-T/AMICA - 広角光学航法カメラ
ONC-W1 - 表面探査ローバ
MASCOT - 固定カメラ
CAM-H - 表面探査ローバ
MINERVA-II-A1/A2/B - イオンエンジン
IES「u10」 - 中間赤外カメラ
TIR - レーザレンジファインダ
LRF - 共通通信アンテナ
OME-ANT - 衝突装置(インパクタ)
SCI - ターゲットマーカ
TM
X-LGA
Xバンド・ローゲインアンテナ
地球と直接通信するためのアンテナです。探査機の姿勢に影響されづらく、全方向での通信が可能な無指向性アンテナのため、通信速度は非常に遅いものの、探査機に異常が発生した場合でも通信を確保できます。
ワンポイント
緊急時に地球との通信が途絶えないようにしてくれる、言わば非常用の通信アンテナのようなものです。
SAP
太陽電池パドル
探査機に電力を供給する太陽電池です。本体と比較しても大きな面積を持つ大型のパドルになっているのは、イオンエンジンを作動させるのに十分な電力を確保するためです。効率の良いトリプルジャンクション太陽電池を採用しています。また、本体にはリチウムイオン電池が内臓されており、太陽電池で発電した電力を溜めておくことができます。小惑星付近で1kW、地球付近で2kWの電力を供給できます。
ワンポイント
イオンエンジンは電気の力で動作します。そのため大きな太陽電池パドルが羽を広げるように取り付けられています。
DCAM3
分離カメラ
本体から分離されるカメラです。DCAMはソーラーセイル実験機「イカロス」で初めて採用されました。はやぶさ2は衝突装置、インパクタを用いて小惑星の地下深くのサンプルを露出させますが、その際の様子を撮影するカメラです。デジタルカメラとアナログカメラの2つが搭載されています。
低解像度ながら連続した画像を取得できるアナログカメラと、断続的な画像であるものの、高解像度な画像を取得できるデジタルカメラがお互いを補うように撮影を行います。
ワンポイント
DCAM-3は、「世界最小の人工惑星」とも言われた「イカロス」のDCAM-1/2の後継でもあります。2種類のカメラで「インパクタ」衝突の決定的瞬間を捉えます。
STT
スタートラッカー
探査機が自分の位置を知るための装置です。探査機から見える恒星の位置を認識することで、おおよその位置を把握できます。
ワンポイント
星の位置関係から自分の位置を把握できる装置です。
NIRS3
近赤外分光計
水氷や水を含んだ鉱物を探索したり、その分布を観測できる科学観測機器です。初代はやぶさのNIRSから観測波長を変更した分光計で、35メートルの分解能で小惑星全体の水の分布を観測できます。
ワンポイント
小惑星に水はどれくらいあるのか?この装置でわかります。
CPSL
地球帰還カプセル
サンプラーホーンで採取されたサンプルを格納し、地球へ帰還させるカプセルです。炭素アブレーターと呼ばれるヒートシールドでスペースシャトルの数十倍とも言われる大気圏再突入時の高熱に耐えられる設計になっています。大気圏突入後は十分に減速された後、パラシュートを展開して着陸します。回収されたサンプルは3つの部屋に分けて格納されます。
ワンポイント
このカプセルに小惑星のサンプルをしまい込み、地球へ送り届けてくれます。
X-HGA
Xバンド・ハイゲインアンテナ
地球と直接通信するためのアンテナです。初代はやぶさと異なり、平面アンテナが採用されているため、重量の削減が可能となりました。送信出力は20Wです。
ワンポイント
地球との通信を行い、観測データなどを送信するためのアンテナです。最も多くのデータを送信できますが探査機の姿勢は限られます。従来のパラボラから平面のアンテナにすることで軽量化されています。
Ka-HGA
Kaバンド・ハイゲインアンテナ
KaバンドというXバンドよりも波長の短い電波を使用することでXバンドのアンテナよりも多くのデータを高速で地球とやりとりできます。最大で32kbpsの通信速度を確保できます。受信可能な地上局が多く、使いやすいXバンドと、使い分ける事で効率良く探査機との通信を行います。またこうして2種類の電波を使うハイゲインアンテナがあることで、片方が故障してももう一方で補うことができる、冗長系としての意味もあります。
ワンポイント
X-HGAと同じく多くのデータを送信できるアンテナですが、こちらはXバンドよりも波長の短いKaバンドという電波を使う事でより多くのデータを遅れるようになっています。
X-MGA
Xバンド・ミディアムゲインアンテナ
ローゲインより速く、ハイゲインよりも指向性が広いアンテナです。ハイゲインアンテナでは多くのデータをやりとりできますが、本体に固定されたアンテナを正確に地球に向けなければならず、探査機の姿勢が制限されます。一方でジンバルと呼ばれる電動の駆動装置を持つこのアンテナは、自在にアンテナを地球に向けられるのです。
ワンポイント
ハイゲインアンテナが固定されているのに対し、こちらのアンテナは向きを自在に変える事ができます。そのため探査機の姿勢や観測状態の都合でハイゲインアンテナを向けられない時などにも重宝されます。
DCAM3-ANT
DCAM3アンテナ
分離カメラのDCAM3からデータを受け取るアンテナです。通信速度は最大4Mbpsです。
ワンポイント
DCAM-3はデジタルカメラとアナログカメラでそれぞれ撮影したデータを送信してきますが、それを受け取るための受信アンテナです。
RCS
化学推進系
四酸化二窒素(N2H4)と、ヒドラジンを用いた2液式と呼ばれる20ニュートンの推力を持つ小型のロケットエンジンです。
ワンポイント
初代「はやぶさ」の教訓から漏洩のしにくさなど、大幅に改良が加えられた部分でもあります。
IPPU
イオンエンジン直流電源ユニット
太陽電池からの電力を、イオンエンジンを駆動させるのに適した電圧に変換する装置です。この機器は300ワットもの出力を持つために発熱量が大きく、そのため放熱させやすい探査機の外側に直接貼り付けられています。さらに表面には銀テフロンと呼ばれる放熱材が隙間なく貼られています。
ワンポイント
イオンエンジンが必要とする高電圧の電気を作ってくれる装置です。大きな出力を持つために発熱しやすいため、よく冷えるように探査機の外側に貼り付けられています。
ONC-W2
広角光学航法カメラ
光学航法カメラは小惑星に接近する際に使用されるカメラです。はやぶさ2では望遠のONC-Tと、広角のONC-W1とONC-W2が搭載されています。このONC-W2は横向きに取り付けられています。初代はやぶさが最後に地球を撮影したカメラでもあります。
ワンポイント
小惑星を画像で見ながらゆっくりと近づいていく段階で使われます。
LIDAR
レーザー高度計
レーザを用いて探査機が小惑星からどれくらい離れた位置に居るか知ることのできる装置です。レーザを照射して跳ね返ってくるまでの時間から割り出すという仕組みです。また、小惑星表面の高低差を詳細に観測し、小惑星全体の地形を観測のほか、重力分布の計測といった科学観測も行います。さらに反射してくる時間だけでなく、光量も観測することで浮遊する微粒子を計測するダストカウント機能や、小惑星表面の反射率(アルベド)の分布の観測も計画されています。
ワンポイント
レーザを使って自分が今小惑星からどれくらい離れた所に居るかを知れる装置です。その特性を利用して高低差から地形を観測したり、光量から浮遊するダストの量や、場所ごとの光の反射を観測するといった役割もあります。
SMP
サンプラーホーン
先端を小惑星表面に接触させ、プロジェクタイルと呼ばれるタンタル製の弾丸を内部から発射して小惑星表面を撃ち抜き、舞い上がった砂を採取する装置です。打ち上げるまでは畳まれています。
ワンポイント
伸びる筒のようなものの先端を小惑星表面に接触させ、弾丸を使ってサンプルをとります。そのエネルギーは拳銃の弾並みです。
ONC-T/AMICA
望遠光学航法カメラ/多バンド可視カメラ
複数の光学航法カメラのうちの望遠カメラです。航法用に使われるほか、小惑星全体を撮影し、マッピングも行います。また、ONC-Tはカラーフィルタを利用してマルチバンド分光と呼ばれる複数の、特定の波長の光のみで小惑星を観測できます。わずかな色の違いを区別できるカメラです。
ワンポイント
光学航法用のカメラと、科学観測用のカメラが兼ねられています。
ONC-W1
広角光学航法カメラ
複数の光学航法カメラのうち、探査機下部に搭載されている広角カメラです。
MASCOT
表面探査ローバ「マスコット」
ドイツDLRが開発した着陸機です。小惑星の微弱な磁場を観測する磁力計「MasMAG」、500ものチャンネルで揮発性物質や炭素を含む鉱物を探査するハイパースペクトル顕微鏡「MicrOmega」、小惑星表面放射計「MARA」、光学カメラ「CAM」の4つの科学観測機が搭載されています。内部には重りが取り付けられたモータがあり、それを振り回すことで小惑星の表面を飛び跳ねることができます。
CAM-H
固定カメラ
サンプラホーンの展開状態を確認するためのモニタカメラです。寄付金を用いて搭載された機器です。
MINERVA-II-A1/A2/A3
表面探査ローバ「ミネルヴァ2」
小惑星表面を探査するローバです。3基が搭載され、正面から見て左側に2基(A1とA2)、右側に1基(B)が搭載されます。内部には旋回用とホップ用の2つのモータが備えられ、跳ねるようにして小惑星表面を移動します。小型のCCDカメラを3つ備えているほか、温度計を6つ備えています。
IES「u10」
マイクロ波放電式イオンエンジン
初代はやぶさでも使用された電気推進システム、イオンエンジンです。電気推進は化学反応を利用する通常のロケットと異なり、推力は非常に弱いものの非常に高い比推力を持ちます。言わば燃費がとても良いエンジンです。このエンジンによって小惑星から砂を持ち帰る、サンプルリターンミッションが可能になりました。中でも初代はやぶさに搭載された「μ10(ミュー・テン)」はマイクロ波放電式と呼ばれる寿命が非常に長いエンジンであるため、数年単位での運転を行えます。はやぶさ2に搭載される「μ10」は初代はやぶさのものを元に改良されたエンジンであり、不具合の対策を行ったほか、推力も8ミリニュートンから10ミリニュートンにパワーアップされています。
TIR
中間赤外カメラ
このカメラは小惑星表面からの熱赤外線の放射を撮影できるカメラです。はやぶさ2が訪れるC型小惑星における岩石の隙間の広さや、岩石自体の密度などを、小惑星表面の熱を観測してそれらのデータを得ます。金星探査機「あかつき」に搭載された中間赤外カメラ「LIR」と同じ設計のカメラです。
LRF
レーザレンジファインダ
レーザを利用して探査機の高度を知る装置です。小惑星へ着陸する際には、まず最初にレーザ高度計のLIDARを使用して降下を始めます。ある程度まで接近するとこのレーザレンジファインダに切り替えて降下を続けます。数メートル~100メートルの間で使用するLRF-S1、数センチ~数十センチの間で使用するLRF-S2、直下を観測するLRF-S3がそれぞれ探査機底面に取り付けられています。
OME-ANT
共通通信アンテナ
小惑星表面に放出されたマスコット、ミネルヴァ、衝突装置(インパクタ)と通信するためのアンテナです。
SCI
衝突装置(インパクタ)
爆薬を利用して銅板を秒速2キロで射出し、小惑星の表面に人工クレーターを作り出します。探査機から放出された後、探査機本体が小惑星の反対側に隠れた所で起爆されます。この装置により、太陽風などの影響を受けていない、数十億年前から小惑星内部に保存されてきたサンプルを採取できるようになります。
TM
ターゲットマーカ
降下前に着陸予定地点の小惑星表面へこのターゲットマーカを落とし、「FLA」と呼ばれるフラッシュランプを使用してその反射光を降下する目標とします。5つが搭載されています。