核燃料の増殖
高速中性子を利用して実現できる、核燃料を「使った以上に増やせる」高速増殖炉の仕組みとはどういうものなのでしょうか。核燃料に含まれるウランには主に核分裂性のウラン235と、核分裂性でないウラン238が存在しています。ウラン238は中性子を吸収すると2回のベータ崩壊を経て核分裂性のプルトニウム239へと変化する性質があります。
軽水炉などの熱中性子炉においてはウラン235が核分裂する割合に対して、ウラン238がプルトニウム239に変化する割合が0.3 ~ 0.6倍ほどあります。これは「転換」と呼ばれ、その比率は「転換比」と呼ばれます。こうして原子炉内で作り出されたプルトニウム239も核分裂することで発電に役立っています。
また使用済み核燃料にも含まれるため再処理により取り出す事ができ、再び核燃料としてリサイクルできます。高速増殖炉では高速中性子を利用することによって、プルトニウム239が中性子により核分裂する確率よりも、ウラン238が中性子を吸収してプルトニウム239に変化する確率の方が高くなるため、結果としてプルトニウムが燃焼するよりも多くプルトニウムを作ることができるのです。
また、核分裂性物質が核分裂を起こした際に放出される中性子の平均数は、入射した中性子のエネルギーが高いほど多くなるため、核燃料の増殖という点においてプルトニウムを核燃料とし、高速中性子を用いる高速増殖炉は有利なのです。
高速増殖炉においては燃やした燃料に対して、転換によって生産できた燃料の方が多くなるため、この割合を示す値は「転換比」ではなく「増殖比」と呼んでいます。「もんじゅ」の場合はこの値が1.2であり、これは薪を10本燃やすと新たに薪が12本出来ている暖炉のようなものです。
また、増殖比を上げるにはMOX燃料中のプルトニウム239の割合(富化度)を下げ、ウラン238の割合を上げることなどで達成できます。この増殖により核燃料をより効率的に利用でき、高速増殖炉による核燃料増殖によって数千年にわたるエネルギー供給が可能になると考えられています。
ウラン濃縮不要
高速増殖炉においてはMOX燃料と呼ばれるプルトニウムを主体とした核燃料を利用するため、従来の軽水炉などで必要だったウラン235の濃縮が不要になるというメリットがあります。従来の軽水炉などで用いられる核燃料においては、天然のウランに0.7パーセント程含まれる核分裂性のウラン235を3パーセント程まで増やす必要があるため、濃縮という工程が必要となります。
これは同じウランの同位体のうち、質量の軽いウラン235を、全体のほとんどを占めるウラン238との重さの違いを利用して取り出す事で行われます。しかしプルトニウムを利用するMOX燃料の場合は、天然ウランよりもウラン235が少ない劣化ウランにプルトニウムを混合して作られるため、濃縮の工程が不要となります。
高燃焼度の達成
高速増殖炉では運転しながら燃料を増やす事ができるため、炉心に装荷した核燃料においても核分裂性のプルトニウムが核分裂しつつ、ウラン238もプルトニウム239へと変わっていきます。そのため核燃料が自己補充されることになるため、軽水炉の約40,000MWd/t程度の燃焼度に対し、高速増殖炉では約100,000MWd/t程度まで燃やすことができます。
MWd/tは燃焼度と呼ばれ、1トンあたりの核燃料が使い終わるまでの間にどれだけの熱エネルギーをもたらしたかを、1日間で発生した熱出力の総発熱量で表した数値です。この数字が多ければ大きいほど、原子炉で長期間沢山の熱エネルギーを生み出した事になります。燃料集合体あたりの燃焼度を高くすることで取り出せるエネルギーの量を増やし、核燃料を効率良く利用することができます。
放射性廃棄物の核変換処理
原子炉でウランが中性子を吸収し、ベータ崩壊を経て生成される物質にはプルトニウム以外にネプツニウムやアメリシウム、キュリウムといったマイナーアクチノイド(MA)と呼ばれる超ウラン元素も含まれます。プルトニウム239やウラン235などは核分裂しやすい物質ですが、一定の確率で核分裂を起こさずに中性子を吸収してこうした重い元素を生成します。
これらの元素はプルトニウムと違い、熱中性子炉の熱中性子では核分裂を引き起こしにくく、原子炉内の中性子を無駄に吸収してしまう確率も大きい元素です。そのため核燃料サイクルにおいてはこれらの超ウラン元素は分離され、放射性廃棄物として処理されます。
これらの超ウラン元素は高速中性子によって核分裂を引き起こす確率、核分裂断面積が大きくなるという性質を持っているものが多くあります。高速中性子を用いる高速増殖炉においては、これらの超ウラン元素を核燃料と一緒に装荷しておくことで、核燃料として核分裂させてしまうことができます。
これは半減期が長く、長期間の保管が必要な超ウラン元素を核燃料として燃焼させつつ、半減期の短い核分裂生成物に変えてしまえるという利点を持ちます。放射性廃棄物を減らし、また燃料としても利用できるのは高速炉・高速増殖炉の大きなメリットです。
高い熱効率の実現
「もんじゅ」をはじめとした高速増殖炉の多くは冷却材に液体金属であるナトリウムを利用しています。ナトリウムは水と比較して熱を輸送する能力が高いため、軽水炉では300℃程度だった冷却材の温度を500℃近くまで高められ、容積あたりの熱効率が良くなります。
軽水炉では生み出された熱エネルギーの30%~ 35%程度が電気エネルギーとして取り出せていましたが、高速増殖炉では40%以上までその効率を高められます。これまでの軽水炉では熱効率を上げるため、本来1気圧では100℃で沸騰する水を300℃程度で沸騰させられるよう、原子炉を圧力容器で70 ~ 150気圧まで加圧していました。
しかしナトリウムの場合は1気圧での沸騰温度が800℃程度であるため、原子炉を加圧する必要がなく常圧での運転が可能です。これにより軽水炉のような極めて高い圧力に耐える頑丈な圧力容器が不要となり原子炉容器を薄くできるほか、原子炉の意図しない減圧によって冷却材が沸騰し、急激に失われる冷却材喪失事故(LOCA)が原理的に大変起きづらくなっています。
また、前述の通りナトリウムは熱輸送能力に優れるため、原子炉が電源を失った場合でも自然循環で冷却を続けられるという安全性に優れたメリットもあります。