中性子爆弾は放射線強化爆弾とも呼ばれる核兵器の一種ですが、その中性子には重水素とトリチウムのD-T核融合反応による高速中性子が用いられます。核分裂で生じる中性子よりもエネルギーが非常に高く、貫通力や飛程を長く取れます。なのでブースト原爆かテラーウラム型の水爆が必要になります。
通常の水爆では核融合で生じた中性子のうち、爆弾の外側へ飛んでいこうとするのを反射体を使って爆弾内部に戻し、ウランやプルトニウムの核分裂反応を促進させて爆発力を高めますが、中性子爆弾は反射体を無くして中性子を出しっ放しにします。これで爆発力と引き換えに中性子線量を大きくします。
通常の水爆は爆発のエネルギーのうち、衝撃波と熱放射が85パーセントを占め、起爆時の放射線となるエネルギーは5パーセント程度です。中性子爆弾では衝撃波と熱放射を最小で50パーセント程まで抑え、代わりに放射線エネルギーを最大で45パーセントほどまで伸ばせると言われてます。
核兵器を使用すると起爆時の放射線に加え、ウランやプルトニウムの核分裂反応や中性子吸収反応によって、強い放射能を持つ核分裂生成物やアクチノイド元素が生じます。これがいわゆるフォールアウト(放射性降下物)ですが、中性子爆弾の場合は起爆時の核分裂が抑えられるので通常水爆の半分くらいになります。
つまり、起爆時に照射される即発中性子の線量を増加させたぶん、フォールアウトが減るのです。但し中性子線の照射を受けた物質が中性子捕獲により放射性同位体へと変換されることで生じる「誘導放射能」は中性子線量の多さから強く現れると考えられます。
また空気中の水分が多いと水に含まれる水素原子の中性子捕獲反応により、地表まで到達する中性子線量が少なくなる場合があります。これは湿度の高さによって中性子爆弾の効果が変動しやすくなるということです。さらに雨が降った場合には著しくその効果が下がる場合があります。
中性子爆弾の用途としては強力な中性子線や、γ線による電磁パルス(EMP)によって落下してくる弾道ミサイルの制御システムを電子的に破壊することで核攻撃を阻止する対弾道弾迎撃ミサイル(ABM)の弾頭として冷戦時代に用いられたりしました。大気が極めて希薄な宇宙空間においては中性子線の到達距離も長く、落下してくる核弾頭に対して比較的広い影響範囲を持たせられます。
中性子爆弾「W66」を搭載した対弾道弾迎撃ミサイル「スプリント」(Credit:US Army)
超高速で飛来する大陸間弾道ミサイルの弾頭を迎撃するためには高精度な終端誘導が必要ですが、初期の弾道弾迎撃ミサイルが開発された当時においてはコンピュータ等が現在ほど発達していませんでした。そのため通常弾等による迎撃は困難を極めたため、弾道弾迎撃ミサイルにおいては核弾頭を搭載することでその精度を補えるだけの効果範囲を持たせる事となりました。これはアメリカのみならずソビエト連邦における弾道弾迎撃ミサイルシステム「A-135」においても同様であり、核弾頭を用いて核弾頭を迎撃するというものでした。
但し高空での核爆発(HANE)においては発生する電磁パルスの影響が広範囲に及び、地上の電子機器や送電網が致命的なダメージを受けると考えられます。そのため弾道弾迎撃ミサイルの使用時においては場合によってはレーダーが一時的、または恒久的に使用不可能になる事があり、その際に同一地点に対して第二次攻撃などが行われてしまうとその迎撃ができないといった問題も生じます。