アメリカの「NIF(国立点火施設)」
(Credit:LLNL)
慣性閉じ込め核融合では高エネルギーのレーザーや重イオンのエネルギーを用いて核融合反応を引き起こそうとするものです。磁場閉じ込め核融合では磁場によって閉じ込められた高温のプラズマ内部で核融合反応を起こさせるのに対し、慣性閉じ込め核融合では核融合燃料を外部からのエネルギーで一気に核融合燃料を瞬間的に加熱し、爆発的に圧縮(爆縮)させることで高温・高圧の状態を作り出し核融合反応を起こさせます。
これは1960年代にレーザーが発明された頃から研究されており、レーザーの大出力化が進むと共に進歩を遂げてきました。近年では点火条件の達成にも成功しています。慣性核融合の燃料は重水素とトリチウムを混合し、極低温で液化させたものを球形のペレットと呼ばれる小さな容器に封入して利用します。
これを瞬間最大出力が1テラワット(1000ギガワット)から1ペタワット(1000テラワット)に至る非常に強力なレーザーや、高エネルギーの重イオンなどを生み出す「エネルギードライバー」によって極めて精密なタイミングで周囲から一気に照射します。これにより一瞬にして極めて高温・高圧な環境をペレット周囲に作り出し、一気に爆縮させる事で核融合反応に必要なローソン条件を達成させるというものです。
フランスの「LMJ(レーザーメガジュール)」
(Credit:CEA)
慣性核融合を発電に用いるためにはエネルギードライバーの効率を高め、連続的にエネルギーを取り出すために短時間での高い繰り返し能力が必要とされています。また、アメリカやフランスなどでは熱核兵器(水素爆弾)に関する研究のための研究が慣性核融合を利用して行われています。慣性核融合で実現される高エネルギーの環境は熱核兵器が炸裂する瞬間の状態を再現できるため、その瞬間に生じるプラズマやガンマ線などの状態を検証できます。これによって得られたデータは現在までの核実験のデータと共に熱核兵器の安全な維持管理に利用されています。ちなみにこうした軍事研究の場合は発電で求められるような短時間での高い繰り返し能力は特に必要とされないのが特徴です。
慣性閉じ込めにおける「直接照射」と「間接照射」
慣性核融合において、レーザーなどを核融合燃料に照射する場合は「直接照射」と「間接照射」の2種類の方法があります。直接照射は文字通りレーザーを燃料にそのまま直接に照射する方法です。間接照射方式よりも効率が良く、レーザーのエネルギーをより多く燃料に対して照射できるのが特徴です。しかしレーザーのエネルギーは場所によってムラが生じやすく、燃料を均一に爆縮しづらいという問題があります。爆縮にムラがあると、「レイリー・テイラー不安定性(Rayleigh-Taylor Instability)」と呼ばれる現象が生じます。これは爆縮が進行すると共に燃料の形が大きく歪み、正確な爆縮ができなくなって核融合反応が不十分に終わってしまうという現象です。
このレイリー・テイラー不安定性が引き起こされる原因の一つであるレーザーの照射均一性の問題は近年様々な方法で改善が行われており、直接照射方式でも十分な核融合反応が起こせるようになりつつあります。
直接照射方式
直接照射方式は「中心点火方式」と「高速点火方式」の2つに分けられます。中心点火方式では爆縮によって核融合燃料の中心部分のスパーク部と呼ばれるところで高温高圧のプラズマを生み出し、核融合反応を引き起こしています。対して高速点火方式では爆縮用のレーザーである程度まで核融合燃料を爆縮した直後に、円錐形のガイドコーンを用いるなどして点火用の強力なレーザーを別個に照射します。点火用のレーザーはガイドコーンの円錐部分の頂点部分で相互作用を引き起こして高速電子を発生させます。これにより核融合燃料を追加熱して核融合に必要な温度と圧力を達成させるというものです。中心点火方式ではスパーク部を形成する必要があるのに対し、高速点火方式ではレーザーを爆縮と点火を分けて二段構えにすることで、爆縮時のレーザーに高いエネルギーを必要としません。そのためレイリー・テイラー不安定性が生じづらいという特徴もあります。
間接照射方式
ホーラムと呼ばれる円筒の周囲にレーザーを
照射し、放出されるX線を利用する。
(Credit:CEA)
一方間接照射方式では重金属で作られた「ホーラム(hohlraum)」と呼ばれる円筒形の空洞にレーザーを照射します。するとホーラム内壁の黒体放射により均一な波長を持つX線が生成されます。これによりホーラム内部は均一なエネルギーのX線に満たされる事になります。そしてホーラムの中心部分に配置された核融合燃料のカプセルにこのX線が照射されると、表面部分で起きる瞬間的な「アブレーション(Ablation)」と呼ばれる蒸発現象が起きて核融合燃料が圧縮されます。これはロケット効果とも呼ばれ、まるでロケットが宇宙に飛び立つ時のように、核融合燃料の表面が外側に向かって蒸発する推進力で、内側に向かって爆縮されるエネルギーが生まれるのです。直接照射方式よりも効率は落ちるものの、レイリー・テイラー不安定性を抑えやすく、均一で正確な爆縮ができるのが特徴です。
間接照射方式で用いられるホーラム材料
間接照射方式で用いられるホーラムの材料としては黒体放射によってX線を生じさせやすく、またそのX線を閉じ込めやすい重金属が用いられています。主に金(Au)が用いられているほか、近年はウラン(U)も研究に利用されています。ウランは金よりも重い元素であるため、X線を閉じ込める能力に優れており、より高いエネルギーで核融合燃料を爆縮できるという特徴があります。またウランは原子力発電所で用いられる低濃縮ウランを生産した残りである劣化ウランが安く利用できるため、金を用いる場合と比較してホーラムの価格を安くできるというメリットもあります。
アメリカのレーザー慣性核融合実験施設「NIF」で行われたウラン・ホーラムの実験では7マイクロメートルの厚さの劣化ウランを0.7マイクロメートルと22.3マイクロメートルの金でサンドイッチ構造にしたホーラムが利用されました。ウランが金でサンドイッチされている理由としては、ウランを酸化から保護し、さらに金のみでつくられた通常のホーラムと同じ特性を爆縮の瞬間まで維持するためです。