搭載ローバー「MASCOT」の解説
はやぶさ2にはMASCOT(マスコット)と呼ばれる小型の着陸機が搭載されます。
国産のMINERVA(ミネルヴァ)の高機能型、といった感じで、はやぶさ2本体から切り離される事で着陸します。
(Credit:DLR)
DLRで開発中の様子です。大きさはMINERVAよりは大きいもののかなりコンパクトです。
MASCOTはMINERVA同様にホッピング移動により移動する事ができます。
Development of a Mobility Drive Unit for Low Gravity Planetary Body Exploration
(PDF)
How to build a 10 kg autonomous Asteroid landing package with 3 kg of instruments in 6 years?
(PDF)
システムは上記の資料が詳しいです。写真や制御のブロック図なんかもあって面白いです。
8000rpmのILM25というブラシレス直流ステッピングモータで重りをブンブン振り回す事で「飛び跳ねる」事ができます。
電源は搭載された一次リチウム電池から供給されます。
MASCOTに搭載されている科学観測機器をご紹介します。
搭載されている科学観測機器のは磁力計「MasMAG」、地表面放射計「MARA」、光学カメラ「CAM」、赤外線ハイパースペクトル顕微鏡「MicrOmega」の4つです。
磁力計「MasMAG」
(Credit:ESA/CNES)
小惑星の磁場を観測できる装置です。
ドイツのブラウンシュヴァイク工科大学のフラックスゲート磁力計です。装置自体は小惑星の微弱な磁力も感知できるように薄いMLIで覆われているだけですね。
オーロラ観測衛星「テミス」や彗星探査機「ロゼッタ」、金星探査機「ヴィーナスエクスプレス」にも搭載されてるものです。
センサ諸元 | |
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センサ重量 | 80g |
電子機器重量 | 138g |
消費電力 | 1.2W |
測定範囲 | +/- 50000 nT |
センサノイズ(@1Hz) | 10 pT/sqrt(Hz) |
分解能 | 7 pT |
サンプリングレート | 10 Hz |
IGEP-MASCOT Mission overview
(Mascot MAGをご参照下さい)
ワンポイント
地球に地磁気があるように、小惑星表面ではどんな磁場があるのかを計測できます。
地表面放射計「MARA」
(Credit:ESA/CNES)
小惑星の複数の場所で表面の温度を計測することができるほか、波長によって着陸地点の鉱物を識別することができます。ビスマス・アンチモン熱電対が72個取り付けられたセンサが6つ搭載されています。
センサは彗星探査機「ロゼッタ」搭載の着陸機フィラエの「MUPUS-TM」と同等品です。
電子機器は水星探査機「ベピ・コロンボ」の水星表面探査機「MPO」の放射計「MERTIS-RAD」と同等品です。
センサ諸元 | |
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センサ重量 | 320g |
データサイズ | 1.9kbit |
観測運用 | 日の出、日の入、夜間において30秒に1回 |
The MASCOT Radiometer MARA for the Hayabusa 2 Mission
(PDF)
ワンポイント
72個もの温度センサを利用して表面の温度を計測したり、放射される熱を分析することでどのような鉱物が存在するかがわかります。
光学カメラ「CAM」
(Credit:ESA/CNES)
1024x1024の解像度を持つCMOSカメラです。視野角は55度で、カラーチャンネルは470、530、640、870nmの(RGB、近赤外)4チャンネルとなっています。4つのLEDが搭載されていて照らす事も可能です。
火星探査車エクソマーズに搭載の「PanCam」と同等品です。光学カメラで周囲の様子を撮影することができます。
センサ諸元 | |
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センサ重量 | 420g |
観測波長 | 400-1000nm |
データサイズ | 14.7Mbit |
視野角 | 60°×60° |
観測運用 | 昼に5回、夜に4回 |
照明 | LED |
A Camera for the MASCOT lander on-board Hayabusa 2
(PDF)
ワンポイント
高解像度の写真を撮影可能なカメラです。光の三原色であるR、G、Bのそれぞれの色に加え、赤外線でも撮影が可能です。LED照明つき。
赤外線ハイパースペクトル顕微鏡「MicrOmega」
(Credit:ESA/CNES)
複数のバンド(チャネル)を使い分けることにより、太陽系において惑星誕生に関わる、揮発性物質や炭素を含む鉱物を探る事ができます。0.9~3.5umの波長域において、500ものチャネルを持ちます。
到達できなかったロシアの火星探査機「フォボス・グルント」に搭載されたものと同じ観測装置です。
「はやぶさ2」がフォボス・グルントの分も頑張ってくれると嬉しいですね。
またESAが打ち上げを予定している火星探査車「エクソマーズ」にも搭載が予定されています。
センサ諸元 | |
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センサ重量 | 2100g |
データサイズ | 101Mbit |
観測運用 | 1日あたり約15分 |
MicrOmega: an hyperspectral NIR microscope on board Hayabusa2.
(PDF)
ワンポイント
様々な波長の赤外線を非常に細かく見ることで、どんな物質がどれくらい含まれているかを分析できる顕微鏡です。
似たような機体として彗星探査機「ロゼッタ」に搭載されている着陸機「フィラエ」がありますが、これが搭載しているAPXSとかガスクロマトグラフとかがMASCOTに積まれていないのは、「はやぶさ2」は地質サンプル自体は持って帰るからって事で、MASCOTは「持ってきたサンプルはどういう状態のところにあったか」という点で、小惑星そのものの観測を行う事に重点を置いているんじゃないかと思います。
また、他の探査機で採用された同じシリーズの観測装置を使う事でキャリブレーションもやりやすく、フィラエのデータとMASCOTのデータとで彗星と小惑星の比較がしやすいはずです。
また観測機器を絞る事で軽量化されていることが、ホッピングによる移動を可能にしている点の一つではないでしょうか。面白い機体ですね。