イオンエンジンを用いて小惑星へと接近した「はやぶさ2」はカメラや分光計を用いた観測を行い、その後着陸を実施します。この際に小惑星のサンプル採取などを行います。その接近と着陸はどのように行われるのでしょうか。
地上からのコントロール(GCP-NAV)
「はやぶさ2」はまず小惑星上空20kmのホームポジションと呼ばれる位置で待機しています。ここから光学航法カメラ(ONC)とレーザ高度計(LIDAR)を用いながら高度数百メートルの高さまでゆっくりと接近していきますが、この際には「はやぶさ2」が撮影した画像をまず地球へ伝送します。この時に画像と、あらかじめ得られた小惑星のデータから作成したCGモデルとを比較し、そこから「はやぶさ2」と小惑星の位置関係や姿勢を割り出します。
小惑星と「はやぶさ2」の位置関係から小惑星に近づくのに必要なエンジンの噴射量を地上で計算した上で「はやぶさ2」に指令として送信し、遠隔操作を行います。これは複雑な画像を認識したり、瞬間的な状況判断においては「はやぶさ2」のコンピュータよりも人間の方が優れている事から行われる航法です。
自動航法モード(GSP)
このモードは小惑星上空100メートルから下へ降下する際に用いられます。使用するセンサは引き続き光学航法カメラ(ONC)とレーザ光時計(LIDAR)を用いますが、40メートル未満に接近した際には、レーザ高度計(LIDAR)はその役割をレーザ・レンジ・ファインダ(LRF)へと切り替え、さらにターゲットマーカ(TM)とフラッシュランプ(FLA)を用いた着陸の誘導を行います。
地球から遠く離れた小惑星に居る「はやぶさ2」を地上から細かく制御するには、電波の到達時間などの問題などがあります。そのため精密な着陸の誘導は探査機自身がセンサからの情報を元に行う必要があるのです。
まずセンサで得られたデータを元に「はやぶさ2」が自分で考えて実行する行動のパターンを作成します。自律判断の基準とするもの、例えばどういった状況の場合に自ら危険と判断させるか、といった内容はあらかじめ観測したデータを元に決定されるのです。その「はやぶさ2」の行動基準を地上から指令した上で、「はやぶさ2」は自律制御により小惑星への着陸を実行します。その指令は通信が可能な容量や「はやぶさ2」に搭載されたメモリの容量の制約があるため、できるだけ効率的に行えるようにした仕組みが必要となります。
ピンポイント・タッチダウン
小惑星の上空、数十メートルまで接近した「はやぶさ2」はターゲットマーカ(TM)と呼ばれる着陸用の目印を投下します。これは光をよく反射するお手玉のようなものです。お手玉は中に細かい粒状の小豆などが入っており、それが衝撃を吸収することで投げてもバウンドしにくいようになっています。ターゲットマーカは同じような構造を持つことで、重力の小さい小惑星でも狙った場所にしっかり落とせるようになっています。
表面は反射材で覆われているため「はやぶさ2」に搭載されたフラッシュランプ(FLA)の光をよく反射します。そのため、フラッシュランプを使った撮影と、使わない撮影を行う事でその差からターゲットマーカの位置を知ることができます。このターゲットマーカを言わば灯台のようにしてレーザ・レンジ・ファインダ(LRF)も併用しながら「はやぶさ2」は着陸を行うのです。ターゲットマーカは複数利用することでそれを足がかりとし、より高精度に着陸を行えるため、初代「はやぶさ」では3つ持っていったターゲットマーカを、「はやぶさ2」では5つにまで増やしています。
衝突装置「インパクタ」(SCI)の運用
「はやぶさ2」の大きな特徴としてこの「インパクタ」と呼ばれる衝突装置を持っていることが挙げられます。これは爆薬によってライナと呼ばれる金属板を針状に変形させ、メタルジェットと呼ばれるそれを超高速で射出して対象に衝突させるというものです。
このインパクタにより小惑星に人工クレータを作り出し、宇宙風化と呼ばれる太陽光や宇宙放射線などの影響を殆ど受けていない地下深くの新鮮なサンプルを採取することができます。
インパクタの運用にあたっては「はやぶさ2」から分離された後、「はやぶさ2」は安全地帯となる小惑星の影へと隠れます。これにより爆発や衝突などで生じた破片などが「はやぶさ2」に衝突することを防ぎます。
「はやぶさ2」から切り離されたインパクタはタイマー回路で起爆します。そして形成されたメタルジェットが小惑星に衝突するわけですが、この決定的瞬間を撮影しようと思っても「はやぶさ2」は小惑星の影に隠れてしまっています。
そのため、「はやぶさ2」は小惑星の影に隠れてしまう前に「DCAM3」と呼ばれる小型のカメラを切り離します。このカメラは、アナログカメラとデジタルカメラの2つが搭載されており、「はやぶさ2」に代わってインパクタ衝突の瞬間を捉えます。捉えた映像は電波によって「はやぶさ2」へと送信され、「はやぶさ2」上面のアンテナによって受信されます。このカメラはソーラーセイル実証機「IKAROS」に搭載されていた「DCAM-1/2」の後継でもあります。
インパクタによって人工クレーターが作られた後は飛び散ったダストが落ち着くのを待って、ホームポジションへと戻り、「DCAM3」などから得られた画像を元に人工クレーターの形成された場所を特定し、そこからのサンプル採取を目指します。