磁場閉じ込め型核融合炉の一つ、
ドイツの「ヴェンデルシュタイン7-X」
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磁場閉じ込め核融合ではプラズマを超伝導コイルの磁場によって保持し、そのプラズマを加熱しつつ、そこで核融合反応を引き起こすという方式です。電荷を帯びた粒子である荷電粒子は磁力線に沿って巻き付くように螺旋運動するという特徴があります。これはラーモア運動(Larmor Precession)やサイクロトロン運動(Cyclotron Motion)と呼ばれるものですが、この性質を利用して磁場でプラズマを閉じ込めようというものです。
磁場閉じ込め型ではプラズマを閉じ込めるための「超伝導コイル」、そのプラズマを加熱するための「加熱装置」、プラズマから不純物を除去する「ダイバーター」、プラズマを囲い、放射線を遮蔽し、燃料の生産も行う「炉壁・ブランケット」等で構成されています。
それでは磁場閉じ込め核融合炉の主な構成要素の一部を見てみましょう。
超伝導コイル
超伝導コイルではその磁場によってプラズマを閉じ込め、核融合反応を持続させる環境がつくられます。そして「超伝導(Superconductivity)」とは物質の「相」の一つであり、超低温の環境下で電気抵抗がゼロになる現象です。しかし何故、超高温の環境を作り出す核融合炉で超低温の超伝導技術が使われるのでしょうか。それは将来核融合炉を発電用エネルギーとして実用化した時、プラズマを維持するコイルの消費電力を抑えるためです。超伝導状態にするには冷凍機を使い、クライオスタットと呼ばれる真空容器で極低温を維持する必要がありますが、コイルの電気抵抗がゼロになることで核融合炉の運転に必要なエネルギーを大幅に減らすことができるのです。
加熱装置
磁場閉じ込め核融合炉では超電導コイルの磁場の「閉じ込め」によってプラズマが保持されますが、そのプラズマの温度を上げて核融合反応が起きるエネルギーにまで到達させる「加熱」も必要になります。プラズマの加熱には、ジュール加熱、中性粒子ビーム加熱、高周波加熱など複数の方式があります。
ジュール加熱
ジュール加熱においてはプラズマに電流を流し、そのプラズマ自身の電気抵抗を利用した「ジュール熱(Joule Heat)」により加熱を行います。プラズマは電気を流しやすい性質がある一方、電気抵抗も持つため、電気コンロのニクロム線に電流を流した時のように発熱するのです。しかしプラズマが高温になるにつれて電気抵抗は小さくなっていくためジュール加熱には限界があり、後述する別の加熱方法と併用して利用されます。
中性粒子ビーム加熱
中性粒子ビームを用いた加熱は「NBI(Neutral Beam Injection)加熱」と呼ばれており、イオン源によって生成したイオンを高エネルギーに加速し、プラズマに入射させることで加熱しようというものです。しかしイオンは電荷を帯びた粒子であるため、プラズマを閉じ込めている超電導コイルの強力な磁場と相互作用を起こしてそのイオンビームが曲げられてしまい、プラズマ内部に到達させることができません。そのため、中性化セルと呼ばれる部分でイオンビームを電気的にプラスでもマイナスでもない中性粒子ビームに変換した上でプラズマに到達させています。
NBIにおいて、従来までは最初に電子を剥ぎ取られた状態の正イオンを生成・加速し、そこに電子を付着させて中性化する方式が利用されていましたが、出力が高くなるにつれてビームが中性化される効率を示す、中性化効率が著しく下がってしまうという問題がありました。そこで最初に余分な電子を付着させた状態の負イオンを生成・加速し、そこから電子を剥ぎ取って中性化する方式が考えられました。負イオンの精製方法としては、高温電子でプラズマを作り出した後、低速電子(熱電子)を付着させるというタンデム型イオン源などが利用されます。負イオン源から出た負イオンは静電加速器で加速された後、電子を剥ぎ取るための薄膜やガスで満たされた中性化セルを通過して、核融合炉内のプラズマへと入射されます。
高周波加熱
高周波を用いた加熱は「RF(Radio Frequency)加熱」と呼ばれており、高周波のエネルギーをプラズマに吸収させて加熱するという、一般家庭にもある電子レンジと同じ原理の加熱を行います。電子サイクロトロン共鳴(ECH:Electron Cyclotron Resonance)と呼ばれる方式で、核融合炉で用いられている強力な磁場に合わせた約100ギガヘルツの高周波を入射させると、プラズマの中の電子と共鳴して加熱されます。電子の運動エネルギーと入射させる高周波の周波数が合わないと共鳴はおきず、高周波はそのまま素通りしてしまいますので、プラズマ中の加熱したい場所に応じて周波数や入射角度を制御することで最適な加熱を行います。
ダイバーター
重水素とトリチウムの核融合反応が起きるとプラズマ内でヘリウム4の原子核が作り出されます。またプラズマの影響などにより核融合炉の内壁表面の物質がプラズマに混じってくることがあります。プラズマの中にこうした燃料以外の不純物が多く混じってくるとプラズマのエネルギーが不純物に奪われて維持できなくなってしまうという問題があります。それを防ぐためにダイバーター(Diverter)と呼ばれる部分ではプラズマを引き出してきて、そこから不純物を取り除いています。ダイバーターは後述する炉壁・ブランケット部分と共にプラズマ対向機器(PFC:Plasma facing component)の一つであり、放射線と高温の状態に曝されることになります。やかんに入れた水をほんの一瞬で沸騰させてしまう程の熱環境にあり、この条件に耐えうる材料が必要になります。
炉壁・ブランケット
核融合炉の内壁部分は、発生する放射線の遮蔽、リチウムから核融合燃料となるトリチウムの生産、発生したエネルギーを熱として核融合炉の外へ伝えていくエネルギー輸送の媒体、という3つの役割を担っています。重水素とトリチウムによるDT核融合反応で生じるエネルギーの8割は、高速中性子の運動エネルギーとして発生します。また、ブランケットにはリチウムが含まれており、このリチウムによって高速中性子の運動エネルギーが減速されて奪われる時と、中性子がリチウムの原子核に吸収されてトリチウムが生み出される時に大きな熱エネルギーを生み出します。この熱を外部に輸送し、発電に利用するのです。こうして中性子からエネルギーを取り出しつつ、燃料となるトリチウムを生産すると同時に、放射線を遮蔽する役割を果たすことになり、これによって放射線が外部に漏れないようになっています。
トリチウムは中性子を吸収したリチウム6によって生産されますが、核融合によって発生した中性子1個に対して生成されるトリチウムの数の比を「トリチウム増殖比(TBR:Tritium Breeding Ratio)」と呼びます。トリチウム増殖比が1未満になると燃料は使うほど減る事になり、いつかは尽きてしまいます。核融合炉自らが使う燃料を生産しつつ、新たに建設される核融合炉の燃料も生産しなければならないため、トリチウム増殖比は少なくとも1.1程度にしなければなりません。しかし核融合で発生した中性子の全てがトリチウムの生産に役立つわけではありません。発生した中性子の一部は他の構造材に吸収されてしまったり、リチウム6のブランケットが設置されていない方向へ飛んでいくためです。そうした状態ではトリチウム増殖比は1未満になってしまいます。
増殖比を十分に増やすためには、反応にエネルギーを消費する吸熱反応ではあるものの、リチウム7に中性子を吸収させてトリチウムと同時に中性子も生成させるという方法のほか、ベリリウムや鉛に中性子を1つ照射すると、2つの中性子を放出するという(n,2n)反応を利用する方法を用いて中性子の数を増やします。核融合炉のブランケットで局所的にこうした中性子の増倍を利用することで、核融合炉全体のトリチウム増殖比を1以上にするのです。
ブランケット内のリチウムは固体の状態で配置しておく方法と、液体にしてブランケットを循環させる方法が挙げられます。液体にしておくと核融合炉から得た熱エネルギーを外部へと輸送する熱輸送媒体を兼ねることができるため、発電システムとしての構造をコンパクトにできる可能性があります。他にも熱輸送媒体としては化学的に安定で安全性の高いヘリウムガス冷却、高い熱輸送能力を持つ液体金属冷却、超臨界軽水冷却などが挙げられています。