キュリオシティと地球との通信は大きく分けて直接の送受信と、火星を周回する探査機を中継する2つの方法があります。直接送受信する場合、車体上部に取り付けられた高利得アンテナ(HGA)と低利得アンテナ(LGA)が用いられます。この2つのアンテナは7~8GHzのXバンドの周波数を利用しています。
HGAとLGA
LGAとHGA(Credit:NASA)
HGAは地球を指向できるようジンバル機構を持つ六角形状のフラットアンテナです。キュリオシティの車体中央部左側に設置されています。車体そのものを地球に指向させなくとも、ジンバルによりアンテナ単体で地球を指向させられます。多層プリントのパッチアンテナで48個の素子を持ちます。通信速度は最大で毎秒32キロビット(32kbps)です。
LGAは無指向性のオムニアンテナでHGAの後ろ側に設置されており、トラブルなどでHGAが地球に指向できない状態でも最大で毎秒15ビット(15bps)という低い通信速度ながら通信を全天周で行えます。
信号は小型深宇宙トランスポンダ(SDST:Small deep space transponder)から、15Wの出力を持つMESFET/HEMTのトランジスタを使用した半導体パワーアンプ(SSPA:Solid State Power Amplifier)で増幅され、HGAとLGAの2つのアンテナから送信されます。
UHF中継通信
UHF通信アンテナ(Credit:NASA)
火星を周回する探査機を中継する場合はキュリオシティの車体後部、原子力電池の右側に設置された円筒形のタンクのようなUHFアンテナを使用します。これは送信に401MHz、受信に437MHzを使用するヘリカルアンテナです。火星を周回するNASAの火星探査機、「マーズ・オデッセイ(ODY)」と「マーズ・リコネッサンス・オービタ(MRO)」と、ESAの火星探査機「マーズ・エクスプレス(MEX)」の3機を介した通信が行えます。通信はマーズ・オデッセイを介した場合で最大毎秒256キロビット(256kbps)、MROを使用した場合で最大毎秒2メガビット(2Mbps)の速度で行えます。
このUHFでの通信を行う場合はエレクトラ・ライト・トランスポンダ(ELT:Electra-Lite Transponder)と呼ばれる装置が利用されます。ELTは冗長系としてELT-AとELT-Bの2系統が搭載されています。軌道周回機はキュリオシティよりも遥かに大きなアンテナを持ち、MROであれば直径3メートルもの大型HGAでの通信が可能です。これはMROが超高解像度撮像カメラの「HiRISE(High Resolution Imaging Science Experiment)」を搭載しており、その膨大な画像情報を高速で伝送するためですが、それがキュリオシティの探査データの送信にも利用できるのです。これらの軌道周回機がキュリオシティの上空を通過し、通信が可能なのは1機あたり1日約8分間、2機で約16分ほどです。取得された数々のデータは毎日この間に送信されます。火星着陸からの10日目(Sol10)までの間のデータは1日あたり平均31MBが送信されました。地球からキュリオシティへの指令は1日あたり225キロビット程度で、約15分間の送信ウインドウ中に毎秒1~2キロビットの速度で地球から軌道周回機を介して送信されます。
これらの通信を地球で行うのはNASA、JPLが保有する世界最大の深宇宙通信システム、ディープ・スペース・ネットワーク(DSN:Deep Space Network)です。これはゴールドストーン、マドリッド、キャンベラの3箇所の深宇宙通信施設に設置された34mや70mといった複数の大型パラボラアンテナにより、地球の自転や公転に左右される事なく通信を1年を通して行えます。