彗星探査機「ロゼッタ」の搭載機器
彗星の秘密を探るべく打ち上げられたロゼッタですが、どういった観測装置で調べるのでしょうか。機体に搭載されている様々なハイテク分析装置を見てみましょう。
▲多くの科学観測機器が搭載されている。(Credit:ESA)
- 多波長カメラ
OSIRIS - 紫外線撮像分光計
ALICE - 可視光・近赤外画像分光計
VIRTIS - マイクロ波サウンダ
MIRO - 圧力センサ・質量分析計
ROSINA - 二次イオン質量分析計
COSIMA - 原子間力顕微鏡
MIDAS - 電波サウンダ
CONSERT - ダスト検出器
GIADA - プラズマ環境観測機器群
PRC - 電波科学実験
RSI
OSIRIS:オサイレス
Optical, Spectrocopic and Infrared Remote Imaging System
(Credit:ESA)
可視光・近赤外光・紫外光など幅広い波長域の光を観測可能な2機のカメラです。広角のOSIRIS-WAC、狭角のOSIRIS-NACの2つで構成されており、広い視野で彗星から放出されるガスやダストを観測することができます。複数のフィルタを備えており、観測波長を選択できます。
ALICE:アリス
ALICE Ultraviolet Imaging Spectrometer
(Credit:ESA)
紫外線撮像分光計です。コマとテイルに含まれているガスを分析するための紫外線分光計です。205nmの極端紫外線を観測し、彗星核から放出される水や一酸化炭素、二酸化炭素などの放出量を計測するほか、彗星表面の組成を分析します。
ほぼ同等品の装置がNASAの冥王星探査機「ニューホライズンズ」にも搭載されており、こちらは「P-ALICE」と呼ばれ、ロゼッタに搭載されている「R-ALICE」とは観測波長などが若干異なっています。
VIRTIS:ヴァーチス
Visible and Infrared Thermal Imaging Spectrometer
(Credit:ESA)
3つの観測バンドを持つ可視光・近赤外画像分光計です。うち2つがマッピング分光計で、可視光チャンネルと近赤外チャンネルに分かれています。残り1つは高分解能画像分光計となっており近赤外チャンネルのとなっています。マッピング分光計は比較的広い範囲を分光観測し、高分解能画像分光計は狭い範囲を高分解能で細かく分光観測することができます。
MIRO:ミロ
Microwave Instrument for the Rosetta Orbiter
(Credit:ESA)
マイクロ波サウンダです。GHz帯の電波を利用する観測装置です。彗星核やコマから放出されるガスの性質を観測する装置です。188GHzのミリ波と、557GHzのサブミリ波を用いて観測する事で彗星の主な主成分である水、酸素同位体、アンモニア、一酸化炭素、メタノールなどの観測を行います。また、彗星核の地下数センチまでの地下の温度を測定し、氷の昇華がもたらす彗星核への影響、氷や塵の層の厚さ、ダストやガスの放出に伴う電気的、熱的な変化を観測します。着陸機フィラエの着陸地点決定にも用いられます。
ROSINA:ロジーナ
Rosetta Orbiter Spectrometer for Ion and Neutral Analysis
(Credit:ESA)
2つの質量分析計と1つ圧力センサを組み合わせた装置群です。彗星のコマと太陽風によって作り出される電離層の組成を分析します。質量分析計は彗星の大気や電離層の成分のほかガスやイオンの平均流速や温度を観測し、圧力センサはガスの密度や速度を観測します。これにより彗星のガスやダストにどのような物質が含まれているか、また周囲の状態と電離層の関係などを分析できます。
「二重収束形質量分析計(DFMS)」
湾曲した電場と磁場に沿って運動するイオンを運動エネルギーによって振り分ける事で、どういった物質がどれくらい含まれているかを分析できる質量分析系です。ガスを分析する場合と、イオンを分析する場合とで2つのモードを切り替えての使用が可能です。
「飛行時間型質量分析計(RTOF)」
ガスを観測するガスモードではガスの中性粒子に電子に衝突させてその二次イオンを分析できるように最適化され、イオンを観測する場合は彗星由来のイオンを直接観測できるようにに最適化されるようモードを切り替えて運用されます。
「彗星圧力センサ(COPS)」
ベアード・アルバート型電離真空計と呼ばれる装置を用いて彗星由来のガスの密度や速度を分析します。気体の分子に電子が衝突することで生まれるイオンを測定することでその圧力を計測することができます。
COSIMA:コージマ
Cometary Secondary Ion Mass Analyser
(Credit:ESA)
飛行時間二次イオン質量分析計(TOF-SIMS)です。一次イオンビームと呼ばれる荷電粒子を観測したいダスト成分に照射し、その際に成分の表面から放出される荷電粒子(二次イオン)がドラフトチューブと呼ばれる管を通過する時間を計測することでその重さを特定し、それがどういった物質であるかを知ることができます。これにより彗星から放出されたダストに有機物が含まれているかどうかを調べることができます。
MIDAS:ミダス
Micro-Imaging Dust Analysis System
(Credit:ESA)
原子間力顕微鏡を利用したマイクロイメージングダスト分析システムです。彗星の周囲の塵環境を解析するための装置です。顕微鏡の一種で、ナノメートルサイズのダストも撮影可能な高性能顕微鏡です。ダストの体積や形状のほか、その大きさや形ごとの分布、ダストの密度の時間的な変化などを観測することができます。
CONSERT:コンサート
Comet Nucleus Sounding Experiment by Radiowave Transmission
(Credit:ESA)
電波サウンダーです。彗星核の内部を探るための電波サウンダーです。彗星に向かって照射した90MHzの電波の反射を見ることで、彗星の密度の分布などの内部構造や組成を探ることができます。電波が地下に潜っていく事で実際に彗星を割ったりしなくてもその内部構造がわかります。
GIADA:ジアダ
Grain Impact Analyser and Dust Accumulator
(Credit:ESA)
ダスト検出器です。圧電素子とレーザダイオードを組み合わせる事で、検出器内に入ってきたダストの速度や衝突エネルギーを分析出来る装置です。どれくらいの重さのダストがどれくらいのスピードでどれくらい存在しているのかがわかります。彗星のテイルから放出されるダストがその速度と大きさにどういった関係があるのか、といった研究を行います。
RPC
Rosetta Plasma Consortium
(Credit:ESA)
彗星の周囲のプラズマ環境を観測する複数の装置群です。
ICA:イオン組成アナライザ
イオンの質量分布や速度分布を三次元で観測します。
IES:イオン・電子センサ
彗星を取り巻いているプラズマに含まれてる電子やイオンのフラックス(密度)を観測します。
LAP:ラングミュアプローブ
彗星のプラズマの密度、温度、流速を観測します。
MAG:フラックスゲート磁力計
太陽風と彗星のプラズマが相互作用する際に生じる磁界を観測します。
MIP:相互インピーダンスプローブ
彗星のコマ内のガスに含まれている電子の密度や温度、ドリフト速度を観測します。
RSI
Radio Science Investigation
これはロゼッタ単体の観測装置ではなく、地球の地上通信局と組み合わせる事で行われる「電波科学実験」と呼ばれる観測です。ロゼッタに搭載された「超安定発振器(USO)」からは非常に安定した電波が照射され、彗星のコマやダストを通過させたその電波を観測することで彗星のコマやダストの研究を行う「掩蔽観測」の他、探査機の動きから彗星の重力場を分析することもできます。